在宅医療について
英語のことわざでも、There is no place like home.「我が家にまさる所なし」「うちほど良い所はない」といわれます。病気になってもできることなら自宅で療養したい、人生の最期を住み慣れた自分の部屋で過ごしたい、というのが多くの患者さんのお気持ちでしょう。実際にはそうできないことが多いのが現実ですが、「自宅で過ごしたい」という強い想いと少しの介護力があれば、在宅医療と訪問看護、訪問介護の利用により実現が可能です。
当院ではこれまでに人工呼吸器をつけた小さいお子さんから99歳のご高齢の方までのべ40人余の患者さんの在宅医療をさせて頂きました。当院は在宅医療支援診療所として、在宅訪問診療の患者さんは24時間365日対応する体制で診療させて頂きます。
私は病院で多くの肺がん患者さんを看取ってきましたが、在宅では専門の先生が少なく、支援体制も当時は不十分で自宅で死なせてあげることができませんでした。その想いから、開業した今こそそういう方のお役に立ちたいと考えています。
在宅医療の実際
在宅医療と聞いてもどんな具合か想像もつかないことも多いと思いますので、いくつかの例を呈示させて頂きます。
<脳卒中後に自宅療養をされている92歳の患者さん>
3年前に脳卒中で寝たきりとなったが、会話はある程度可能で時に笑顔もある。お嫁さんが熱心に介護されているが、日中は週4日デイサービス、週2日はショートステイを利用され、その間の介護負担は軽減されている。当院は月2回の訪問診療、訪問看護は週1回利用されている。
<肺がんの末期を自宅で過ごされた70歳の患者さん>
総合病院で肺がんの抗がん剤治療を受けていたが、治療の効果が小さくなり全身に転移が広がってきた。ご本人とご家族に「自宅で過ごしたい」という希望があり、退院。退院当日から当院と訪問看護が治療を引き継いだ。痛みのコントロールや褥瘡の処置を行い、栄養補給も工夫しながらすすめた。患者さんは体調不良のさなかでも、自宅にいる安ど感からか時折さわやかな笑顔も見られた。最期の数日は訪問看護さんが午前・午後、当院も毎日訪問診療を行い、ご家族がかわるがわる付き添って静かに永眠された。ご家族から「大変な時期だったが、自宅で最期まで看てあげられて満足した。」とお話を頂いた。
<認知症が悪化してきた95歳の患者さん>
90歳過ぎまではお元気であったが、この1年は認知症が悪化してきた。内服や入浴の拒否などもあり、春に肺炎で入院した際は点滴を抜いたり大声をだしたりして大変だった。87歳の奥さんがひとりで介護されており、興奮を抑える内服薬など最低限の治療と訪問看護、介護サービスを利用した。最期は食事も拒否され、点滴や入院も拒否されたが、少しずつの水分補給などで自宅にて1週間過ごして静かに息を引き取られた。最期は当院で訪問してお看取りをさせて頂いた。
<通院が困難な呼吸不全の患者さん>
肺の病気により酸素療法を行ってきた78歳の患者さん。総合病院で1時間近く待つのと前後の通院時間が苦痛となり、在宅訪問診療を希望された。当院から月2回ご自宅に伺って訪問診療を行っている。栄養補給の仕方や呼吸リハビリの指導も行い、訪問看護・訪問リハビリも導入して安定した療養生活を送っている。
それぞれの病気や体力は異なりますが、皆さん訪問診療を受けて安心して自宅療養が可能となりました。訪問できる人数には限りがありますが、ご希望のある患者さんは当院または各総合病院の地域医療連携室などにお問い合わせ下さい。